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アメリカでは、IPOの際に引受証券会社が発行会社から徴収する手数料は、通常、発行総額の七%程度とされていますが、WRハンブレクトの「オープンーPO」では、五%程度となります。
引受手数料を引き下げることで、発行会社にとっては、手元に残る資金の額を多くすることができるのです。
しかし、オンライン投資銀行といえども、有望な公開候補企業を発掘し、その経営者との信頼関係を作り上げ、企業価値を高めていくための戦略や資金調達のタイミングについてアドバイスを提供し、正確な企業評価を行ったうえで公募価格の価格帯を算定するという伝統的な投資銀行業務のノウハウなしには、ビジネスとしての成功はおぼつかないといえるでしょう。
インターネットを通じたオークションによって公募価格を決定する「オープンーPO」でさえも、投資銀行による想定価格帯の提示なしには、円滑に実施することは難しいのです。
そこで、オンライン投資銀行は、引受審査や企業分析などの専門家を擁するとともに、IPO候補企業の発掘や関係維持にあたる営業担当者を多数抱えています。
例えば、ウィットキャピタルは、創業直後から大手投資銀行ソロモンースミスバーニーの副会長や、メリルリンチのインターネットーセクター担当アナリストなどの大物を次々にスカウトし、ウォール街の注目を集めました。
それだけにオンライン投資銀行が、株式売買委託手数料の価格破壊をもたらしたインターネットを通じたオンライントレードのように、IPOプロセスのコストを劇的に引き下げることは難しいものと考えられます。
また、アメリカでは、ナスダック市場で公開されるIT関連銘柄の株価が急上昇する中で、IPO銘柄の提供は、オンライントレードーサービスを行う証券会社にとっても必要不可欠なサービスとなってきました。
このため、多くのIPO専門の投資銀行がオンライン証券会社との提携を進めており、オンライン投資銀行が、インターネットを通じた販売力だけで発行企業に自らをアピールすることは容易ではありません。
わが国でも、イー・トレード証券、日興ビーンズ証券などオンライントレード専業の証券会社が、IPO銘柄の取り扱いをセールスポイントとしながら口座数を増加させる一方、野村誼券をはじめとする既存の証券会社も、オンライントレードを利用する投資家向けにIPO銘柄を抽選で割り当てるといったサービスを開始しています。
IPOのプロセスにインターネットを活用することは、早くもオンライン投資銀行だけの専売特許ではなくなりつつあるようです。
アメリカで、最近のネット証券取引の拡大とともに注目を集めているのが、ECN(電子証券取引ネットワーク)を通じた株式取引の拡大です。
ECNとは、いわばコンピューターネットワーク上の擬似的な証券取引所です。
現在、インスティネット、アイランドなど九つのシステムが、SECによる事実上の承認を得て稼働しており、ナスダック市場登録銘柄を中心に株式の売買を行っています。
ECNは、九七年にSECの規則が変更されたことをきっかけとして登場した比較的新しい仕組みですが、すでにナスダック市場売買高の約四割を取り扱うまでに成長しています。
ECNの登場は、アメリカの株式市場の構造を大きく変えつつあります。
また、ナスダック市場の運営者である全米証券業協会(NASD)が、ECNとの競争に危機感を募らせていることは、わが国で大きな話題を呼んだナスダックージャパン市場創設構想の一つの背景となりました。
ECN登場の経緯やその意義、ECNとグローバルに広がる市場問競争とのかかわりなどについては、私の著書『株式市場間戦争』に詳しく記しておきましたので、それをご参照下さい。
ここではむしろ、ECNとネット証券取引のかかわりに的を絞ってみたいと思います。
ECNのような電子取引システムは、実はアメリカではそれほど目新しいものではありません。
最大のECNとして知られるインスティネットは、六九年に稼働したシステムですので、七一年に開設されたナスダック市場そのものよりも古い歴史を持っているのです。
しかし最近まで、電子取引システムは、一部の専門家にしか注目されない存在でした。
それは、電子取引システムが、主として年金基金や投資信託など、機関投資家や証券会社間の売買にだけ利用されるものだったからです。
ところが、個人投資家によるネット証券取引の利用がさかんになったことで、電子取引システムのあり方が大きく変化することになったのです。
ECNの成長は、この変化と軌を一にしています。
もともと電子取引システムは、コンピュータを利用することで、取引コストを引き下げることをねらいとして導入されたものです。
機関投資家のトレーディングールームに取引端末を設置することで、証券会社のセールスマンと電話で話したりファックスのやり取りをすることなく、機関投資家が直接、売買注文の付け合わされる場である市場へ注文を送り込むことができるようになったのです。
しかし、電子取引専用の取引端末を維持するためのコストは小さくありません。
毎日多額の取引を行う機関投資家ならともかく、せいぜい月に数回、少額の注文を出すだけの個人投資家にとっては、それだけのコストを負担するのは割に合いません。
ところが、インターネットを通じたオンライントレードは、個人投資家の自宅のパソコンをいわば電子取引システムの取引端末にしてしまったのです。
オンライントレードで得られるリアルタイムの情報や各種のチャート、分析ツールなどは、かつては機関投資家でなければ利用できなかったものです。
ナスダックーレペルH端末を駆使して頻繁に売買を繰り返すティードレーダーは、証券会社を介する形をとりつつも、ECNという電子取引システムに事実上直結されています。
ECNの側でも、個人投資家の存在を強く意識しています。
オンライン専業証券会社と提携し、指し値注文を優先的に回送してもらうことで流動性を高めようとする一方、インターネットのホームページ上でシステム上の注文状況を全面的に公開しているといったECNもあります。
今のところ、ECN上で直接の取引参加者となることができるのは、機関投資家と証券会社のみに限られていますが、技術的には、個人投資家がインターネットを通じてECNへ直接注文を送ることは十分に可能です。
ECNは、個人投資家が参加するインターネット上のサイバー証券取引所に発展する可能性を秘めているのです。
それでは、ECNが個人投資家による取引への直接参加を積極的に進めようとしないのはなぜでしょうか。
それは、証券会社を介して注文を取り込むことで、自ら直接個人投資家から注文を集めるよりも、効率よく多数の注文を集め、高い流動性を確保することができると考えているからなのです。
例えば、個人投資家の多数の取引口座を管理するためには、無視できないコストがかかります。
取引報告書などの書面を作成し、送付したりする必要があるほか、投資家が信用取引を行っている場合には、担保などの信用管理も欠かせません。
また、セールスマンによる投資アドバイスを行うブルーサービス証券会社の場合、アドバイスによって新たな投資への需要が喚起され、結果的に売買注文が増加するという効果もあるでしょう。
また、ECNが、いわば証券会社を飛び越して直接個人投資家と接触するようになれば、証券会社の自己売買部門からの注文を失うことにつながりかねません。
インスティネットをけじめとする初期の電子取引システムは、当初、証券会社を介さない機関投資家間の直接取引をうたい文句にしましたが、実際には、十分な流動性を確保できるだけの注文を集めることができませんでした。
電子取引システムが成功したのは、機関投資家と並んで証券会社の取引参加を認め、自己売買部門による業者間売買の注文を受け付けるようになった結果です。
ECNも顧客としての証券会社を失うことが、流動性の低下につながることを十分に認識しています。
インターネットは、個人同士、あるいは個人と会社などの機関を直接結び付け、様々な場面において、中間者を排除していくものだとしばしばいわれます。
実際、インターネットを活用すれば、取引コストを大きく低下させられることは事実です。
オンライントレードが引き起こした手数料の価格破壊は、そのことを端的に示しています。
しかし、インターネットの広がりは同時に、あらゆる中間者、仲介者が不要ではないということをも示しました。
それは、インターネットーファイナンスが安定的な資金調達手段とはならず、オンライン投資銀行のようにインターネットを活用する仲介者の存在が脚光を浴びていることや、事実上のインターネット証券取引所であるECNが、証券会社の存在に依拠しながら流動性を高めようとしていることからも明らかでしょう。
インターネットは、単純に中間者、仲介者を排除するものではなく、むしろ、その意義を問い直すものだといえるのではないでしょうか。

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